先日、私が納経所に詰めておりますと、三弘法を何度もお参りくださっている顔なじみの方がお越しになりました。
三弘法霊場会では複数回お参り頂き、併せて納経している方に回数により授与品《五回・弘法大師お守り、十回・五色線守り、三十回・東寺長者様もしくは仁和寺門跡様直筆の色紙》をお渡ししており、その回数をお参り手帳に記録しております。
その方はちょうど十六回目で折り返しを過ぎたところでしたので、私は「半分を超えましたね。三十回は大変ですが残りもどうぞ頑張ってください」とお声がけしました。すると
「初めて三弘法をお参りした時は勝手がわからず大変でしたけど、今は来る度に違う風景が見え、色々なものに関心が湧いてすごく楽しいです。」
とお言葉を頂き、有り難いと思うと同時にお大師様のお言葉が胸に浮かんでまいりました。
『言って行ぜざれば信修(しんしゅ)とするに足らず』
言うだけで実行が伴わなければ、信心修行しているとは言えない。
これはお大師様が天台宗の開祖・伝教大師最澄に宛てた手紙の一節です。お大師様が唐から持ち帰られた「理趣釈経」を伝教大師が借用を申し込んだことに対して断りを入れた言葉で、理論だけでなく行動実践を伴わなければならないと説かれたものです。
修行とは理論と実践の積み重ねです。理論で学んだものを実践し、身につけたものを基礎前提の理論としてさらに学び実践する。理論のみを平面的に蓄えるのではなく、理論と実践を多重的、立体的に積み上げていくものなのです。
例えるなら雪だるまのようなものです。最初は小さな雪の玉でも転がしながら雪を吸収し、次第に大きな雪玉にしていく。さらに複数の雪玉を作り重ねて、ひとつの形を整えていくのです。
冒頭でお話ししましたお参りの方も、まさにその積み重ねによって心の器を拡げ、新しいものを受け取る余裕を持ちながらお参りされているのだと感じました。
どうか皆さまも、お大師様の教えとともに、今日の一歩を大切にお歩みください。
ではまた、三弘法でお会いいたしましょう。 合掌